不育症とは
不育症とは、妊娠はするものの流産、死産を2回以上繰り返してしまう状態をいいます。
流産とは、妊娠の早い時期(妊娠22週)までにおなかの赤ちゃんが亡くなってしまうことをいい、妊娠22週以降に亡くなった場合を「死産」といいます。また流産のうち、妊娠12週未満のものを「早期流産」、妊娠12週以降22週未満のものを「後期流産」と定義されています。早期流産は流産全体の約90%を締めています。
不育症の原因の主なものとして、抗リン脂質抗体症候群、子宮の先天異常、両親いずれかの染色体異常、胎児の染色体異常、内分泌疾患などが挙げられます。
不育症の検査
不育症が疑われる場合には、原因(リスク因子)を特定するための検査を行います。血液検査により夫婦それぞれの染色体やホルモンの検査、凝固因子検査、抗リン脂質抗体測定などを行います。また子宮の形の異常を調べるための超音波検査も行います。
着床不全関連検査
着床不全とは良好な胚を4個以上・3回以上移植しても妊娠しないケースを指します。しかし当院では融解時形態良好胚を1回でも移植しても妊娠しなかった場合、もしくは初回の方でもご希望があれば以下の検査をご案内しています。その理由として、私たちは受精卵は命の種であり芽である、大切な存在と考えていること、また保険での胚移植回数に制限がある(40歳未満で開始した方は6回まで、40歳以降に開始した方は3回まで)ため何回も移植はできないことが挙げられます。
着床不全の原因
胚質の問題:受精卵の染色体異常や発育不全
子宮の問題:子宮内フローラ異常や慢性子宮内膜炎、子宮奇形・内膜ポリープ、子宮筋腫やポリープなど
母体の問題:免疫系の異常や黄体機能不全、栄養因子など。
胚質の問題
当院では培養士による厳正な胚grade評価により、厳選した良好胚を移植することを徹底しておりますが、残念ながら肉眼的な評価のみでは胚の染色体異常を除外することができません。
胚の染色体異常を調べ、染色体正常胚を移植する方法(PGT-A)がありますが保険適応がなく保険の範囲の体外受精では行うことができません。(先進医療Bに指定されており、行う場合体外受精の費用がすべて自費となります。)
子宮の問題
当院では極力採卵1回目より着床の評価として子宮内フローラ検査を強くお勧めしております。その理由は、保険診療の範囲の不妊症検査では着床の評価が全く行われていないにも関わらず初回の胚移植では通常最もgradeの良い胚を移植するためです。
フローラ検査は先進医療Aに指定されており保険診療と並行して行うことが可能です。またエコーにてポリープなどがあるケースでは先に子宮鏡検査を行い必要であれば切除をお勧めしています。
母体の問題
免疫の異常(リン脂質抗体・抗核抗体・抗甲状腺抗体など)や血液凝固異常(APTT、第12因子、プロテインC/プロテインS)などがあると様々な部位の血栓を引き起こし血流障害から着床不全や流産を起こします。また同種免疫因子としてTh1/2バランスの異常があれば子宮内膜が胚を受容できず拒絶してしまうため着床障害となります。
栄養因子
ビタミンD、葉酸、亜鉛、鉄の不足などは、卵子の発育・着床・胎児の成長に影響します。当院では体外受精周期に入る方全員にルーチンで血中ビタミンD、ホモシステイン(葉酸)、亜鉛、フェリチン(鉄)の検査をお勧めしております。
| ビタミンD | (基準値 欠乏20ng/ml以下 不足20-29ng/ml 充足30ng/ml以上 摂取推奨量1000IU/日)不足により卵子の質低下、着床不全、流産率上昇、妊娠合併症(妊娠高血圧症・糖尿病)リスク上昇など。男性で精液所見悪化。 |
|---|---|
| 葉酸 | (血中ホモシステイン濃度8以上で不足 摂取推奨量800µg/日)不足により着床障害・胎児の神経管閉鎖障害による奇形リスク上昇、母体の抑うつ症状、男性で精子形成障害など。 |
| 亜鉛 | (基準値80µg/ml以下で不足 摂取推奨量8mg~35mg/日)不足により卵胞発育障害、排卵障害、卵子成熟障害、着床障害。子宮内膜症の悪化。男性で男性ホルモン低下、精液所見低下。 |
| フェリチン | (基準値50ng/ml以下で不足 推奨摂取量:ヘム鉄10.5~16mg/日)不足により卵子の質低下、着床不全。妊娠しても低出生体重児のリスク増加など。 |
Th1/Th2バランスの異常について
Thとは免疫細胞であるヘルパーT細胞のことで、産生するサイトカインの種類からTh1とTh2に分類され、免疫バランスはこの二者で保たれています。正常妊娠ではTh1細胞が減少し、Th2細胞が優位となり妊娠が維持されます。Th1優位になると受精卵が拒絶され着床不全となります。
反復着床不全患者と妊孕能正常の女性のTh1/Th2比を比較すると反復着床不全患者で有意に高く、そのような場合に免疫抑制剤タクロリムスを併用することで妊娠率が改善します。タクロリムスはTh1細胞の働きを低下させ、Th1/Th2バランスを整え受精卵拒絶を防ぐことで着床に至ると考えられます。
Th1/Th2値によるタクロリムス投与量 10.3〜13.0:1錠 13.1〜15.7:2錠 15.8〜:3錠
着床不全関連採血検査一覧(すべて自費検査です)
| 検査項目 | 費用(円) |
|---|---|
| 総ホモシステイン | 1,500円 |
| 亜鉛 | 700円 |
| フェリチン定量 | 600円 |
| 25-ヒドロキシビタミンD | 700円 |
| 抗リン脂質抗体(APL)パネル | 6,400円 |
| 抗CLβ2GPI複合体抗体 | 1,100円 |
| ループス抗凝固DRVVT | 1,500円 |
| 凝固第12因子 | 1,100円 |
| TH1/2 | 17,000円 |
| プロテインC | 1,300円 |
| プロテインS | 1,900円 |
| 採血手技・判断料 | 3,000円 |
| 合計 | 36,800円 |
※Th1/2検査は、平日午前中のみ、前日までに予約制となっております。保険診療と同日行うことができないため保険と別日、採血のみで受診となります。ご注意ください。
子宮鏡検査
子宮鏡検査とは、⼦宮の中に細いカメラをいれて、⼦宮の内部を直接観察する検査です。
不妊症が疑われる方をはじめ、子宮内に何らかの異常(奇形、子宮内腔の癒着、ポリープ など)が起きていると考えられる方、月経不順(過多月経 等)、不正出血などがみられる方に対して行います。
